放心すなわち心の放浪。動かさない身体、さまよわせる心。傍から見ていれば結局何も動いてはいない。自分が観ていても何も動いてやしない。取り込んだばかりの洗濯物が目の前で揺れている。暖気ですら動いている。不動の反動。押し迫られるように部屋から飛…
自分の人生においても、これほどまでに誰かを悲しませてしまうことはないだろう一大事をやらかしたその日、医者にはきつい灸をすえられ、そして一日の絶対安静を告げられた。自転車のハンドルをまっすぐに保つことすらままならない帰り道。それでもお腹は空…
思っていたよりも雨は強くなり、気休めに干した洗濯物を濡らしはじめた。部屋に取り込む。ほぼ一日寝て終わらせた土曜の重さが頭に残る翌日。もし雨がここに少しいじわるをしているというのであれば、降る雨とたくわえられた水はまったく別の生き物か。水な…
スニーカーの底がつたえる歩み、その全てが日にさらされていく密やかな欲。やがて日を退けて潜り込む。僕の素足は街の宙にしつらえた偽物の床に騙され、切り取られた数時間の波へ身を任せた。はねて行く身体としがみつく時間。窓を開けることすらおっくうに…
角砂糖一つだけ針葉樹の森 私のように誰かが標した小径を探りながら 月はただ丸く 口の中溶けてなくなるまで
1分にも満たない診療。言葉を選ぶことなく、素直に自分を告げる土曜日。ほどなく名前を呼ばれ、いつもの薬を受け取りいつも通りの会計を済ませる。レセプトと袋。カバンに放り込みペダルを踏む。快晴。降りそそぐ並木の葉擦れはすっかりと乾き、車輪に踏まれ…
ハッピーの仮面、どこから語ろうか 蒸し暑い昼休み、便器の中に何億かの精子をぶちまけ その上に座ってくうくうと眠った 誰かの目にはかわいらしい寝顔 誰が見てもただの疲れたサラリーマンの寝顔 30分もくうくうと眠り 水を流して仕事に戻った ベルトを締め…
伸ばせど伸ばせど天井知らず 僕らのアンテナ錆び折れず 層がありすぎて目を回す Soがありすぎて目を回す 「そう」がありすぎて目を回す 荘がありすぎて目を回す 総がありすぎて目を回す 相がありすぎて目を回す
Every word has no other meaning.
常に持ち続けていたもの。頑張れという言葉に対する違和感、反発。誰もが誰に対してでも気軽に口に出せる言葉、出している言葉。そして誰かにとっては喉を締め潰される言葉。死の宣告にも等しい力を持った言葉。ゴミ屑の山を乗り越えても乗り越えても、得体…
「今」は「今」ではなくなったはずなのに、まだ何も見たくないよとブレーキがかかる。でも、もうそんなことは言ってられないんだよ。「今」は「今」じゃないんだから。そりゃ、見なくても済むことはたくさんあるよ。でも、見ておいてもそう悪くないことだっ…
ごめん。こんなところでこそこそと言い訳なんかしちゃって。ほんと、一点だけでも見つかればあとの話は早いんだろうとは思っていたんだけど、そういうときに限って、雲の切れ間なんてピンホール並みに見つからなくって。いや、雲のせいにしているんじゃなく…
僕はこの地で僕を捕らえ続け、彼は彼の地で彼の生き様を捕らえ続けている。僕らと彼らを除外したところで棲息していた彼らは、彼らの年齢的なアドバンテージだけを黴ついた旗として振りかざし、僕らという生き物を嘲笑いながら、確実に彼らの内臓は外圧を言…
たぶん愛のトークン 重ねて重ねて水をまいても 泉にもならず 花にもならず 注いでいる僕のその時間だけが ただ満たされる身体と言葉へと挿しこまれていく たぶん愛のトークン 受けるだけの心地よさを カーテンでふさいだ部屋の中 何かに腰かける僕の中 すり…
僕らはエスプレッソの泡に光を重ねて 窓の外の光を閉め切る 蛍光灯とは名ばかりの 得体の知れない憧れの日々が この部屋から逃げていかないように 携帯電話のスケジュールだけを信じて後ろ手にしたドアのことは毎日忘れた 写真も偶像も頭の中では切り分けら…
頼りない夏の木陰にて 擱として閊(つか)え じっと命を見詰めています 遙かに育まれ過ぐ緑 少し色を摂り欲張ったようで 慈悲深き光は子らの肌を射抜き 溢れんばかりの汗と目の光の源としています伝道師として疎まれ 殉教者の夢は取り上げられ 失道の極みに…
醒め行く酔いと変わる日付 鳴りだした声を頼りに音を満たす たたみ重ねる明日への支度 冴え澄む夜を無視して担う時を選ぶ 積もらせてしまった躯の臭いと月の匂い 混じる境にて絞り出す息は白く 暦に追いつかせる弥生この冬も終わりなのだと告げる音、告げる…
カラフルくるくるかわり玉 色のさかいめひかりをためて すきまにかくれたあの子はだあれ かりかりころころすりばちのそこ こつんとぶつかりからっこはぜた あの子とこの子とまんまるはだか お日さまめざしてにげだした さらさらのこったあまいつぶ つめにの…
そりゃ人間だもの、気が滅入ることだってあるさ。日本人なんだし、年がら年中高気圧というわけにはいかないよ。モンスーンとかいうヤツに日々左右されながら、のらくらのらくらふらりゆらりと等圧線の姿を変えるがごとくってやつだ。天気がいいという理由だ…
フィルムに起こしたビデオムービー 切り刻んだ紙吹雪のコラージュ 闇で回したネガを 反転させた光で見せつける悪意 水の上に渡した油、密陀僧を少々 スイトピーのグラデーションを器用に摘んで ボウルに散らし 跡形もなくかき回してしまえ 南天を主役に二粒 …
街のノイズは時間が生んだ活力の削りくず。切った爪の欠片、 太陽を避ける猫の瞳、 信号に埋め込まれたLEDの配列、 ぐるりと描いたなると模様。身体のノイズを少しだけ分けて、 混ぜ合わせた境に浮かんだ羽毛。布にまとめて身体を沈ませ、 ほつれた縫い目か…
そこに厳かさが宿った。訓えは重みの束縛を解き、余白を主と名指した。それは中心にあった。今、波立っていた心は、周囲から静かに鎮められていく。静かなるものを鎮めることにさほどの意味はなく、隆起へと降り注ぐことによって覆い収まってゆくエネルギー…
私めのこの胸の空を渡っては下さいませぬかと 冀う者にかける憐れみもなく 雁はこれを拒んで嗤う 月もなし雲もなし標もなし 夙に野は芒わたる役目を果たしたというのに 風はいまだ南奴の邪言を残す 筋が通らぬ 当てられてみい、 命よりも重い羽がもげてしま…
窓に遮られて届かなかった雨の音。クーラーはその役目をさぼり、二人分の熱に沈んでいるかのような床から静かに起きあがる。水たまりは小さく、ぽつりと浮かぶ点も小さい。何かに引き留められた午睡に、少しだけ頭が重い。そっとしゃがみ込み、まだ横になっ…
今年もあの風を釣り上げよう。水面に落とした糸は何度かふるえ、こっちの岸に波を伝えて、あっちの流れに飲み込まれていった。本当に欲しい引きはこんなんじゃない。去年の竿は物置の奥にも見つからなかった。おろしたての竿は明日まで使える。さそった友だ…
感じているのは体温ではなく 冷たく潤う舌先 滑らかな泉にまかせて 決めかねながら飲み干す 重みに案ずるカプセル 結ばれない味蕾が獣のシルシを求め 頤へと降り立つ焦り 知っている 途端に口は干され 頭の後ろに押し込めた理が 鍵を壊して躯を縛る一時を満…
極彩色だと言いきった責任を取って 眠い色だってその中に眠っている どの色ならその言葉を満たす? 平らに塗りつぶされたスライドが変わる中に 一瞬だけしのばせた明度はどれくらいなの 和算並みの誤差で髪の毛一本に七変化を起こすほどの曖昧 つぶつぶつぶ…
パルスの山に足もととられ パルスの谷に喜怒哀楽 時間の線をつまんではじく 天変地異のはじまりはじまり直立歩行の雪見るうさぎ 両手に懐中時計たずさえて 右に耳をすませば 左の秒針 左はガラスの外れた文字盤 ないものあるもの はざまに身を置き何時閉じて…
さびしい言わないで さびしい思われたかった さびしさの沼なんて さっさと流れを落として ムツゴロウ跡地に何を建てようか なんて無粋な保護区として指定・制定・策定・認定・もろもろ決定 有刺鉄線張りめぐらせて とびこえられるほどの高さ干上がるまでの自…
ゆうべみたいなヒステリーはもうやめよう。そういう朝はいつだって、 ジューサーの場所も分からないし、 いまだにグレープフルーツのありかが分からない。同じことくりかえしてるなんて思わないけど、 顔を合わせるのがつらいからってそそくさと部屋を出るの…