嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

DOROTHY / 鬼束ちひろ (2009)

季節は繰り返すと誰もが口を揃えて言う
ただ一日一日刹那を知らずに過ごす身には分かるまい
時を切ればそれは季節ではなく
ただ一日切り取られた時間の堆積なのだ

時間の中で常に酸素不足であえいでいる
今日の頭痛は明日の回復、そう祈り続けることにも飽きた
痛みに耐えながら今日も頭を抱えて生きている
治るか治らないかはお釈迦様でも分かるまい
何よりも自分がそれを信じていない
負のメリーゴーラウンド、自嘲と共に動きを止める
夢見る白馬の王子、本日休業
助かる方法も塞がれてしまう

遊園地は子どもたちであふれ
動かないアトラクションに怒りの声を上げる
子どもたちの怒号、悲しみ、滂沱
あまりにも安売りに過ぎる
大人たちは身じろぎもせず全ての諦めを受け入れている
それが正解、さもなければまた頭痛の種は増えるばかり
出口へと向かう人の流れに逆らい
回らないメリーゴーラウンドを探す
孫悟空の輪を取り除くにはフェイクの薬を一錠口にして
止まったままの白馬に乗り込むしかない
やがて動くだろうプラスティックのそれは自分が乗り込むことを待っている
それでも動きはしない
自転の放棄

そうやって一日が動きを拒絶している
季節も変わることを止め今日もまた一日を繰り返しては先に進まず
メリーゴーラウンドを止めたのは誰だ
真犯人はどこだ
大声で叫んでみても詮無きことを詮無きこととして呟きながら
またやって来るのだろう、あの不快極まりない頭痛にうずくまる

「助けてママ」

大人の呟き、天はそれを見下すのみ
時間のネジはどこだ、一日を進める動力はどこだ、時計の歯車はどこだ
季節の進まない恐怖を誰もが悔やむこと
それが小さなバッテリー
やがて回れよ時計、太陽よ軌跡を描け
頭痛の呪縛から解き放たれる祈り、護摩、炎
火のたゆたいに希望を見出せ
そこに時間のヒントがあると見破れ
今日もまた手段を探し渡り歩く
頭痛未だ止まず
日は回ることを拒絶し
八方塞がりの中でまた酸欠の恐怖を味わう
エンドレス、助けを呼べども呼べども誰もが同じように頭を抱え込んで動きを止めている

「助けてママ」

言葉はどこにも届けられず
文字として石となり降り落ちるのみ
残されたスーサイドを選ぶことも出来ず
頭を抱え生きていかなければならない
道よ、その先は解放に至るのか
時よ、許しを乞えば動き出してくれるのか


「助けてママ」

最後の懇願も届く先はなく
今日がまた終わらないことへの憤怒を頂いて
明日を夢みる
酸欠に一人あえぎながら
明日を夢みる