嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

胡桃の日 / さだまさし (1976)

思わず殴りかかろうとしたのは
僕の衝動が理由なのか、あなたの不意な言葉が原因なのか
右手を振り上げた瞬間にふと我に返れば
ただそこには身体を強ばらせて
僕と同じように強い握り拳を秘めたあなたの眼がある
そうか、力に訴えかけようとしていたその言動は
ただそれは僕の我が儘であり
そこにあなたは不在だった
暴れる僕の力が突き動かされたのは
あなたの、自分の身をかばおうともしなかった
厳しい視線が作り上げた鏡の暴力であり
きっと僕の力には何も罪はなかった
ただあなたの瞳の中に映し出された僕の本性が全てであり
言い訳は何も成り立たない単純な力に任せただけの
僕の小さな姿だけがそこにあった
もうこのままではいられない二人の力関係が
どこまでも僕を追い詰める
行き場を無くした僕はただ、腕の振り下ろす先を見失って
もうそこで僕は全ての破片を失ってしまったのを知った
この握り拳を弱々しく広げて背中を向けるしかない
あなたがその後に僕に殴りかかれば良かった
それが最善の選択だったのだ