嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

NG / 槇原敬之 (1990)

あの時、君は何が欲しかったのだろうか
ねだっていたものは、何だったのだろうか

それが僕ではないことは知っていた
僕なら連れ出せるだろう
ケージの外の世界を欲しがっていただけの話
だから再び檻に入らなければならない時の悲しそうな顔は
僕と別れることの悲しさではなく
自分が閉じ込められてしまうことへの悲しさだったんだ

それが君が望んでいた世界へと入るための儀式だったとしても
僕という釣り餌を使って何かしらの喜びを見出そうとしていた

本当って何だろう
今ではもう何も分からない
あまりにも時間が経ちすぎて
もう記憶の彼方へとそれは追いやられてしまって

それでもふと思い出させるのは僕の罪?君の罪?
あの日から僕が素直に笑えずにいるのは
君が押しつけた烙印のせい?

嘘だったとは言わない、思わない
だけども僕の中には真実はなかった
君が見ていたその先は僕の顔のまた向こうに広がる世界
僕を素通りして見ていた世界
僕では叶えられなかった世界

今では僕が僕を叶えられずにいる
君が欲しかったものを欲しているのはこの僕、当の本人
あの日々はやはり烙印なのだと今なら思える
焼き付けられたそれをぼんやりと眺めては
僕の世界はどこにあるのだろうと考えている
僕はかつての君の視線を通して
まだ探し続けている
その終着点はどこにあるのだろうかなどと曖昧に考えながら