嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

ダイナマイトとクールガイ / ムーンライダーズ (1992)

根なしのアホウドリから飛び散った一枚の羽は
揺れる水面に一瞬にして消え去り
それを太陽とともに眺める僕らは
一体どんな顔をしているのだろうか
いつかの海辺はいつかの光景のように広がり
それをとらえる瞳に僕は果たして
どこまで誠実に描かれているだろうか
取り違えた色に埋もれて何か別の形になっていやしないだろうか
僕はどこまでも君を切り取ろうとして
ただひたすらにその動きを見つめているだけ
それすらも波に呑まれて消えてしまいそうな気分になる
最後に君に触れたのはいつのことだろうか
時間は正直に二人の姿を変え
砂の位置さえも分からなくなってしまった点描のごとく
儚く騙し絵のような時計を与える
言葉もなく絡む視線もなく
ただ乗り捨てた車のサイドミラーに小さく二人らしきものが映るのみ
運んできた時間はどこへ返そうか
その答えだけが二人の拠り所としてこの海を選んだ
また一枚視界をかすめて羽が降りてくる時
きっともう誰もここにはいまい
そのタイミングがやってくることだけは明かで
もう僕らに出来ることと言えば
波にさらわれないよう地に足を着けて
ただ一枚の羽が降りてくるのを待つことのみなのだ
ただ一枚、それだけでいい