嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

萬花鏡 / 佐井好子 (1975)

恋はもう二度と花開かない
私の牢屋を理由にしてあなたから目も身体も背けていた
あなたを守ろうと決めたあの日から
変わってしまったものは何?
鑞のような顔で歩き回りながら
その簡単な罪を割って歩く どこまで?

海をも渡り歩く私はモーゼの杖を持っては
行き過ぎる男達を叩き割って進む
裂けた小さな海路に青鉱石を砕いては私の標とする
やがて波に呑まれて行く道標を見失おうとも
しばし私を隠してしまう潮にもみくちゃにされては
私も消えてしまう

私が噛みたいと願うものは何?
岩の中で青を振りかけれてしまったあなたの骨肉?
その身体でさえもやがては鳥が一片残らず片付けてしまう
私の取り分は鳥どもに勝利を得ない限りは現れない

そうしていなくなったあなたの骨を傘の骨に埋め込んで
こんな天気の日にはいつもあなたと、あなたが分泌する(たらす)水を
一滴飲み込んでは終わりにする

あとは少々の骨片と臼歯ですりつぶし私の中に流し込む
ああ、私が成就するのはいつの話
オロロンと吠えながら私になってしまったあなたを弔う
私を送るのは何?
やがて空が黒い鳥どもに覆われる頃
私は肉体をなくし、あなたの骨と共になる夢に到達する
その時にはあなたの骨も私の身体も
私を成す私というかりそめから這い出て
また次の身体を射す肉体として
夜をさまようことになるでしょう