嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

TRUE KiSS DESTiNATiON / TRUE KiSS DESTiNATiON (1999)

バスルームからの足跡。床の隙間に飲みこまれず、不器用に球。タオルを忘れ、椅子に腰掛ける。胸をくすぐり落ちて行く粒。水紋を作り、またひと雫。

向かい合わせの椅子。そこにいる誰かを意識して。この身体の全てをさらして、自分に酔う。自分の体に酔う。肌に残る湯の一片。 「ここを」 。軽く口を開け、のけぞる。歯が、軽く唇に。髪が集めて、また一粒、抗えずにちぎれて。そこに置かれていた掌が、顎を、頬を包みこみ、耳を。そして指の隙に絡ませる。手の甲に浮かぶ膜。そしてまた来た道を戻る。

足を、椅子の上に組む。足首を両手で掴みながら、今度は前へ。髪はもつれ、目の前にブラインド。 「背を」 。先端に、そして頬と鼻を一撫で鉛直方向。うすぼんやりと光を受け宙に、一瞬。

今度は身体を抱く腕。独り遊びの抱擁。右に肩、左に腰。腕を噛む。舌に湯の香り、遠い汗。肘から、あの日傷つけて遊んだ痕まで、自分を自分でなぞる。テーブルの上、グラスに見知らぬ水。中指を落として、歯の、その奥。次は薬指。軽く唇。 「この形」 。

そして掌から口へ、直接。顎をつたって、冷えた胸、形を確かめる。 「見て」 。微笑、流しこんでさらに奥。このまま朝。また抱えなおして。誰にも見つからず、でもそこに座っている誰かと。