嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

three cheers for our side / Flipper's Guitar (1989)

海へ行こう。自転車で行こう。眠らない夜でも陽は昇る。目の中にそれを捕まえたら、ひたすらにそこに向かって行くんだ。お陽さまが真上にくる前に、そこに着くんだ。

あの映画のように、Tシャツの中にわくわくする何かを着て、見た事もない街の景色なんて目に入らなくて、体をつたう汗だって水を浴びればへっちゃらだし、店番のお婆さんがいない隙にくすねたアイスをみんなで回し食いして、小銭なんか持ってた奴のおごりでジュース飲んで。

海が見たいだけなんだ。ひたすらに前だけを見て、仲間は横に、後ろに、ついてくる。誰の前にもいない、みんな横か後ろに並んでいるんだ。誰もが一番乗りを狙ってる。何人だろうとかまわない。車道だ、車道を走れ。邪魔そうによけてく車を見つけて、窓枠につかまれ。そいつも海に行くんだ。大人のくせに、僕らみたいに海に行くんだ。川沿いの道をまっすぐに、自転車の数はどんどん増えて、みんな笑うぎりぎりの顔してる。笑うのは海を見てからなんだ。青と入道雲の広場を見てからなんだ。

真っ直ぐに砂を探せ。太陽が見てる、海の方向を教えてくれる。きっとそこに行けば、宿題だって忘れられるし、知らないやつらにもたくさん会える。絵日記の中身なんか考えるな。魚つりの道具もいらない。今日は海を見ればいいんだ。チェーンがガタガタ言っても、ペダルはゆるまない。

だって、ほら、きっと、もうすぐ。

これから始まるんだ。海を見れば始まるんだ。一年に一回しかこない夏休みが始まるんだ。