嫁聴け(1998-2016)

音を触媒にした連鎖と波形を、言葉を道具に焼いたもの

CUE / ZEPPET STORE (1997)

風の郵便配達の、見えない手紙を 君の手にだけつかまえてごらん
ほら、言葉は必ず入ってくるから

そんな一節を信じてしまいそうな風が吹き抜ける 5 月の気まぐれな晴天に。新緑を謳い、そして次第に灰を帯びて行く愁いにさえ、またどこか喜びを覚えずにいられないような、そんな晴天に。

浮かぶ雲はどことなく夏の色。このまま青に乗り、海に出たなら、きっと気の早い積乱雲が、目測の効かない彼方に浮かび、そして再び空想パステル。

青は音。そこへ至る道は、あまりにも普通な音と、枠の中で語ろうとする言葉が作り出し、厚く固められた音の板が、無色に、そこまでの橋を架けている。創造主は、幻想を現実に求める少年少女の普遍。あまりにもありきたりに。

屈折を起こさない無色。クリスタルの板は虹を作らない。乗る。板までの道は自らの足で。目指すポイントまでは、その頑丈な、あるはずもない繊細が、何もそこに働きかけずとも、形のない目的地へと運び、届けてくれる。それは不可視な翼。あってあり得ない現の夢物語。錯覚を、光を与えるのかのごとく。軽薄だとしても。染まるはずもない光を。

何を見ていたのか忘れてしまった昼寝明け。霞む頭を支え、風の私信を少しだけ信じる気になり、誘われるようにして郵便受けを覗き込む。手にとった絵葉書が、その瞬間消え失せたとしても、まだ午睡にある、と。また再び 5 月だけの風に誘われ、軽い眠りへと。